ボリビアの首都ラパスに来ている。
“ラパス=La Paz”とはスペイン語で〈平和〉という意味だ。
ペルーのプーノという小さな町からバスに乗り、ボリビアとの国境を越えて、さらに船とバスを乗り継ぎこの町へやってきた。この旅も悪くなかった。高山病以外は…
プーノは標高3855メートルにあり、世界一高い場所にある〈チチカカ湖〉に面している町だ。この町で私は高山病に悩まされた。バスでこの町に到着してから、息切れと頭痛、倦怠感で苦しめられたのだ。ふらふらになりながら適当な宿を見つけて、部屋にありつくとそのままベッドに倒れこんだ。
5時間ほど死んだように眠り、起きてみると少し元気になっていた。
町を歩くと偶然にも中華料理屋を見つけ、次の瞬間迷うことなく私はテーブルに着いていた。チャーハンとワンタンスープを注文して、それを口にしたらその旨さに感動した。中華は味が慣れているし当たりハズレもなく、箸で飯を食えること自体ありがたかった。さらに元気になった。大げさに聞こえるかもしれないが、神の救いの手かと思った。
チチカカ湖はその海のような大きさに圧倒された。湖面のすぐ上に青い空と雲があり、その光景は神秘的であった。
欧米人を中心とした多くのバックパッカーを乗せたバスは、ボリビアの国境へ近づいている。
バスの中でペルーの〈ソル〉からボリビアの〈ボリビアーノ〉へ両替が行われた。陸路で国境を超えるのは初めての経験である。国境では〈ハポネス=日本人〉である私だけが別室に連れて行かれ荷物を全て調べられた。腰に銃を携えた検査官に財布の隅々まで匂いを嗅がれた。
“お前はマリファナをやっていないか?”
そのようなことをスペイン語で訊かれた。私はうんざりして、“とんでもない”と大げさにジャスチャーをした。こいつらに付き合わされてバスに乗り遅れたら大変だ。
ボリビアに無事入国すると時差のため時計の針を1時間進めた。
こうしてまた新しい国にやってきたのだ。
国こそ変わったのだが、景色やそこに住む人々はこれまでと変ったように思えなかった。相変わらずアンデスの山々は連なっているし、壮大な景色は変わりようがなかった。その土地に放牧されている羊たち、決して豊かとは言えない厳しい土地で農業に精を出す人たち。
“この人たちの家はどこにあるんだろうか…”
そんな疑問が沸いてくるほど、それくらい大自然の中で人々は生活しているのだ。
インディヘナの女性たち…
彼女たちは先住民で、ペルー・ボリビアと旅をして彼女たちの姿を多く見てきた。彼女たちの特徴は山高帽を被り、髪を三つ編みにして、その土地に似つかない鮮やかな色の衣装を身にまとっていることだ。時々大きな荷物を背負いバスに乗り込むところを見かけたり、町では路上で店を開いて果物を売っていたりする。
先住民と白人の混血であるメスチソと比べると、彼女たちはとても控え目で、彼女たちから旅行者たちに話しかけることはない。山々に囲まれた広大な土地で、羊やリャマを放牧したり、川で洗濯をしたり、農業に精を出して生活している。アンデスの強い太陽を浴びながら、毎日その日の日課をこなす彼女たちを、私はバスの中から眺めてきた。
中学校の地理の教科書で、彼女たちの写真を見たことがある。しかし何故これほどまでに日々の役割に忠実で、自分たちの生活を変えようとしないのだろうか。何故ここまで慎ましくしていられるのだろうか。
そこには民族の強い意志がある。どこかに誇りが見える。私はそう見えた。
いま私が滞在している首都ラパスには博物館がたくさんあるようで、ボリビア独立戦争やインディヘナの歴史について知ることができそうだ。このラパスではそのようなことを知っていきたいと思った。“彼女たちは一体何者なのか?”とても興味を持っている。
そしてボリビアの女性は美しい。この街は少し滞在しても良さそうだ。そう思った。