4番札所である『金昌寺』は、朱色の山門を持ち、左右には2メートルくらいありそうな大きな草鞋がかかげられていた。門をくぐると、山腹に境内は広がっていて、そこは無数の石仏で埋め尽くされていた。
巡礼の初日は、何とか4番までたどり着いた。
私は手と口を清め、本堂まで続く石段を上がっていった。境内にはきっと何百年も前に安置されただろう小さな石仏が所狭しと置かれていた。私はその神秘的な光景に圧倒された。
金昌寺は、大きな草鞋がある山門と1300体あまりの石仏の多さで、秩父巡礼でも特に人気があるとのことだ。
今日最後の作法として、境内で鐘を突き、未だ慣れない〈般若心経〉を唱えた。
今日無事に旅が終わり、少しほっとした気持ちになった。
時刻は5時を過ぎてしまっており、やはり納経所は閉まっていた。
雨が少しずつ降り始めている。お寺は小さな山の麓にあり、辺りは静かで山里という感じである。近くに宿は無さそうで、これから歩いて探すのは無謀だった。
予感していたように、今夜は野宿になりそうだった。
私はお寺のすぐ傍にある家へ訪ね、お寺の駐車場にテントを張らせてもらえないかお願いをした。歩いて巡礼していて、一人用テントを持っていること、一晩だけお邪魔させてもらい明日早くに出発することも付け加えた。
“納経所の軒下にテントを張った方がいいわよ。雨が降ってきているし”
夕飯の支度をしていたおばさんはそう言ってくれ、あっさり交渉が成立した。私は今夜の寝床が見つかったことで、とても身が軽くなった気がした。
何より雨がしのげること、安全な場所で寝られるということ、それは私にとってありがたいことであった。
テントを組み立てていると、納経を書いてくれる〈納経さん〉が車でわざわざ来てくれた。5時は過ぎているが納経所を開けてくれて、私のために金昌寺の納経を書いてくれるという。今日のうちに書いておけば、明日早く出られるだろうという心遣いで、さっきのおばさんが連絡してくれたのだった。
“旨くないかもしれんが食べてってくれ”、納経さんはそう言って、まだ温かいゆで卵を置いていってくれた。
カロリーメイトとゆで卵、、雨の音と鈴虫の鳴き声を聞きながら、一人で今夜の夕食を食べた。質素であるが、それはそれで十分満たされた。
今日一日だけでも、たくさんの人にお世話になった。彼らの心遣いが本当にありがたく、優しさが心に染みた。今日は自分の事ばかり祈っていた気がする。明日からは自分以外の人のために祈るようにしよう。そう心に決めた。
就寝時刻、午後6時。
今夜は石仏に見守られ、寝袋に包まり眠ることになった。