西武池袋線で飯能に行き、そこで乗り換えた秩父行きの電車は、いよいよ目的地に向かって走り出している。
世間は連休であるのだが、乗客は意外に少なくて、親子連れやこれからハイキングに行くであろう中高年の人々、地元に帰ろうとしている若者など見受けられる。
乗客が少ないのは、おそらくあいにくの曇り空であること、すでに時刻は昼をとうに過ぎていることが考えられた。
電車はゆっくりとしたスピードで「武蔵横手」とか「吾野」、「正丸」とか「芦ヶ久保」とか、、
周囲を山々に囲まれた駅を通り過ぎていく。
私にとって懐かしい響きの駅である。私もかつて東京や埼玉に住んでいた時に、小中学校の遠足でこの辺りを訪れていたのだ。
旅先を『秩父』に選んだのも、何かと馴染みのある土地であったというのもある。
しかし今の私は、当時より十年以上の歳を重ね、また当時の遠足とは対照的にしゃいだりした気持ちでもなかった。ようやく『旅』に出たはずなのに、どちらかと言えば落ち着きなく、少し焦っていたり、先行きが心配であったりした…
そんな気持ちのまま、電車は徐々に勾配がきつくなる山々へと進んでいき、杉が生い茂っている山の間を通り抜け、そしていくつかトンネルを潜り、家を出てから3時間後、『西武秩父』へ到着した。
いつもと少しも変わらない自分。さてこれからどうしよう、、
そういう旅の始まりだった。