ヴァラナシ初日の夜は、タクシーの運転手に勧められたように〈ハリスチャンドラ・ガート〉のゲストハウスに泊まることにした。ガンガーのすぐ側にあって、ルーフトップのレストランからガンガーを眺めることが出来る。
もうすっかり夜だ。とりあえず腹が減った。ベジタリアン・カレーも飽きてきた。久々に肉を食べたい。しかしインドではそう簡単に肉にありつけない。レストランで注文しても、“今日はチキンを置いていない”ということもしばしばなのだ。それほど肉を口にしない文化なのだ。
とりあえず外に出て、地元の人に “チキンはどこで食べれるんだ?”と聞きながら歩いた。
たどり着いたのは、地元の人間で賑わう屋台だった。
チキンを食べていたら、急に雨が降ってきた。
“向こうの家の中で座って食べな!”2倍くらいの値段を僕からぼったくったオヤジが言う。
その小さな建物に入ってみると、大きな鶏小屋があった。中にはたくさんの鶏が飼われていた。
つまりそこは肉屋さんで、注文が入るとすぐに鶏を解体して売るというところだった。
〈鶏たちを眺めながら、チキンを喰らう。さっきまでここで飼われていた鶏を、むさぼるようにして喰う。鶏たちが僕を見ている。鶏と僕の目が合う…。スパイスが効いてなかなか旨いじゃないか!!〉
うーん、たまにはこういう食事も悪くないな。
チキンを食べ終わると、一人の男が “写真を撮ってくれ!”と言う。
彼は小屋から鶏一匹をひっぱり出すと、包丁で鶏の首と2本の足をあっという間に切り落とした。そして皮を剥いて内臓を取り出し、ガツガツと刻み、あっという間に肉の塊にしてしまった。
残酷とか不衛生とか、そういう話ではない。
ここにはそういう当たり前の、微笑ましい光景があった。
彼にかかれば、さっきまで生きていた鶏が数十秒で肉の塊になるのだ。
“またヴァラナシに来たときに、必ず写真を渡すよ!”
彼と熱い握手をして、雨がまだ降る中、走ってゲストハウスへ戻った。