飛行機が着陸態勢に入った。聖地ヴァラナシの景色が少しずつ見えてきた。
インド人乗客のほぼ全員が、窓からその景色を興味深そうに眺めている。
やはりインド人にとってヴァラナシは特別な場所なんだ。
〈ガンガーで沐浴して身を清め、現世の罪を洗い流し、死んだら来世で幸せに過ごす…〉
このヒンドゥー教の教えを信じて、インド全土から毎年100万人の人々が巡礼にやってくる。
この人たちは飛行機でヴァラナシに来たが、そうでなくて何週間も何ヶ月も歩いてヴァラナシに来る人たちだっている。
空港の看板に〈Welcome to Holy City〉と書かれていた。
空港でタクシーを拾い、ゴールデンテンプルへ向かってもらった。そこから歩いてゲストハウスを探すつもりだった。案の定、ドライバーは “今晩泊まるゲストハウスはあるのか?いいホテルを紹介するよ”と言ってきたが、“ゴールデンテンプルで友達が待っている。友達が予約してくれている”と適当なことを言っておいた。
“ヒンドゥー教の女神を見たいんだけど、ヴァラナシにカーリーの寺院とかあるのかな?”
ドライバーにそう尋ねてみたら、“きっとあるだろう。”という。コルコタには有名なカーリー寺院があるらしかった。ヴァラナシにはたくさん寺院があるし、誰かに聞けば知っているだろうとのことだ。ゲストハウスの数も1000を超えるらしかった。それだけゲストハウスがあれば今晩泊まるところくらい簡単に見つけられるだろう。少し安心した。
ヴァラナシは晴れている。日差しが強く暑い。
何もないところだ。のどかな平原が広がっている。
1時間くらいして鉄道の線路を越えた辺りから、少しずつインドらしい街になってきた。
“どうして女神を見たいんだ?” ドライバーにそう尋ねられた。
“日本で本を読んで興味を持ったんです”
“インドの女神は病気にかかり、飢えに苦しんでいる。そしてすごい形相で怒っている。それなのに女神は人間に乳を与えている。女神はインドの母だ…”
僕はそう答えた。
“That's Right” ドライバーは静かにそう言った。