Paulista

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サンパウロで楽しく過ごしている。

同室に住んでいるマルコスやサンパウロで格闘技を教えている日本人のおかげで、この街で楽しくやっている。予定ではサンパウロは3日くらい滞在して、リオにでも向かおうと思っていた。しかしサンパウロでの刺激的な毎日が、一週間そして二週間と、私の腰を重くさせていた。この宿の女主人のナミさんに、「サンパウロが気に入ったのでしばらく居させて下さい」とお願いをした。

このサンパウロで何か目新しい出来事があったわけではない。この街や〈パウリスタ=サンパウロに住む人々の愛称〉にとって当り前の日常や風景が、日本から来た私にはとても新鮮だった。

たいがい朝起きたらシャワーを浴びて、スーパーで買ってきた果物を食べる。宿の住人に会うと「bom dia(おはよう)!」と挨拶したり、くだけた感じに「tudobem(調子どう)?」と声をかけている。ポルトガル語も少しずつ覚えてきた。言葉というのは不思議で、スペイン語圏にたった1ヶ月居ただけで、ついついスペイン語を発してしまう。でもポルトガル語もスペイン語も似ているし、私には同じラテン語ということで意味が通じれば何でも良かった。

ナミさんに「ここに居ればポルトガル語をすぐに覚えられるわよ」と言われたが、その通りだった。英語とポルトガル語の小さな辞書をいつも持ち歩き、必要なときはすぐに調べて単語一つでも話すようにしていた。英語ではなくその国の言葉を覚えて旅をすることが、とても楽しくて新鮮だった。

毎日のように〈Liberdade=リベルダージ〉という、この東洋人街をぶらつく。
いつものネットカフェに行きメールをチェックしたり、ヨーロッパへ飛ぶための航空券を探している。南半球は冬でこのサンパウロも夜になると寒い。次は北半球のヨーロッパへ行きたかった。同室のマルコスはブラジル北部のバイーア州の生まれで“バイアーノ”という愛称で呼ばれている。サンパウロのバスターミナルで働いていて、毎朝5時に仕事に出向き、夕方帰ってくると大学に通っている。彼は日本語に興味を持っていて、お互い言葉を教えあったりした。

昼には〈Lancheseria〉と呼ばれる小さな食堂で、豆を煮たブラジル料理“フェイジョン”を食べる。これはいつ食べても美味しいし、毎日のように食べている。食堂には“アバズレ”というあだ名の男が働いていていて、彼と会うたびに握手をしている。彼は酔っ払った勢いでこの辺りで有名なおばさんのケツの穴にビール瓶を突っ込んで、ピースサインで写真を撮ったという曰くつきの男だ。

“この店の通りの向こう側には決して行くな…”と宿の住人のビゴージが言っていた。その先には〈ファベイロ=スラム〉があるからだ。彼はサンパウロ出身のパウリスタで髭をたくわえた初老の男性だ。彼が作るフェイジョンはブラジルで食べた中で一番旨かった。ビゴージはその昔刑務所に入っていて6年間調理係をやらされていたから料理が上手いんだという噂だ。昔セックスのとき、相手の女が“私の顔を叩いて!”と言ったから思い切りぶん殴ったら、口から血が出て血だらけになったんだと、笑いながら話してくれた。

街には“Bom Plate!”という政府が設立した食堂があり、1real=0.5ドルで“フェイジョン”を食べられる。街の貧困者を救済するための食堂であり、たとえ乞食であろうと“1real”を誰かに恵んでもらえば食べ物に在り付くことが出来るのだ。私も“Bom Plate!”を何度か利用したが、そこに食べに来ている利用者は、この街からかき集められた多様性に溢れる人間たちだった。もちろん普通の利用者も食べに来ているが、ときには顔中にタトゥーが入った男や、ぶつぶつ独り言を言っている男、ゲイとテーブルを並べることもあった。

宿の近くには〈日本移民資料館〉があり、水曜日には日本の映画が上映されている。来年はブラジル移民100周年だそうだ。この資料館は行ってみたいと思っていたが、サンパウロを発つまでついに足を運ぶことはなかった。旅をしている身でも、いつでも行けると思っているとなかなか行かないものだ。ブラジルでは日系人は“ニッケイ”と呼ばれ信頼されている。よく分からないが真面目に一生懸命に働く日本人は、きっとブラジルの経済と発展を支えてきたのだろう。

宿のテレビでサッカーの中継を見ていると、〈サントス〉というサッカーチームに“ロドリゴ・タバタ”という日系人選手が活躍しているとマルコスが教えてくれた。やっぱりブラジル人はサッカーが好きだ。“ジーコは神でマラドーナはクソだ”と住人のデイビットが言っていた。

英語を話せるデイビットやアンドレとはよく酒を飲んだ。ビールとカイピリーニャを買い込んでは、次の日二日酔いになるまで飲んだ。誰が言ったのかは知らないが、二日酔いはビール6本とテキーラ3本を飲めば治ると言われている。そうすれば二日酔いであることを忘れる。

リベルダージには日系人のための各県人会がある。ついこの間どこかの県人会が強盗に襲われたという。家財道具を全て持って行かれたが、人命は大事に至らなかったらしい。後に犯人は捕まったが、犯人が警察に賄賂を渡したことでこの事件は解決された。サンパウロは危険な街であることは間違いない。数年前宿の近くで東洋人が少年グループ15人に襲われた。夕方になれば短いスカートを履いた娼婦が街角に立っている。人間はどんなことをしてでも、強く生きていける。

この宿には日系人も住んでいて、彼らは何十年も前にブラジルの地に移り住み、今では“ルイス”や“マリオ”などと名を変えてブラジル人として暮らしている。その中のミルトンさんは近くの旅行代理店に勤めているがアル中である。あるとき〈Lancheseria〉で飲んでいて泥酔しゲロをぶちまけて、その店は出入り禁止になったらしい。カルロスさんが“サンパウロに来たからには〈ボアッチ〉に行ったらいい”とポルトガル語で笑いながら言っていた。ボアッチとは売春目的の男女が利用するナイトクラブである。

夜のサンパウロを知るために〈LOVE STORY〉というディスコに遊びに行ったが、トランスで踊り狂うブラジル人はバッキバキだった。クラブの外ではドラッグの売人とゴミを漁る乞食が当り前のようにいた。ボアッチが掃ける明け方5時頃になると娼婦たちが踊りに来て、全てがピークになった。朝になりクラブも掃けて外でたむろっていると、女たちが“ホテルに行かない?”と声を掛けてきた。男か女か判別できず尋ねてみると“何言ってるの?100%オンナよ!”と言って女は路上で自分の胸をさらけ出し、私の股間をまさぐってきた。全くクレイジーである。ふらふらになりながらリベルダージに帰った。

この街に住む人間は、物語が書けそうなくらい面白い人生を生きている。パウリスタ一人ひとりがサンパウロという大きな舞台で演じているように見えた。4月のニューヨークでも同じようなことを思った。だけどニューヨークと違うのは、サンパウロでは人間の一人ひとりが“主役”を本能のままに自分らしく演じているということだった。ニューヨークの人間のように、主役を奪い合ったりはしない。みんなが主役で自分の意思に従って自由に生きている。

私はサンバを踊れない。私が1つステップを踏もうとすると彼らは4つステップを踏んでいる。その足さばきは見とれてしまうほど美しい。クレイジーな夜に地元の人間しか集まらない小さなバーで聞いたサンバのメロディーが頭に残っている。汗を流しながら絡み合うように踊る男と女は、まるで動物のようだった。

サンパウロが私に教えてくれたこと。

上手く踊れないことは恥ずかしいことではない。自分が出来る踊りを踊ればいい。言葉を上手く話せなくてもいい。恥ずかしがることはない。話せる言葉を並べて話してみればいい。そうすればきっと伝わる。上手く歩けなくてもいい。自分の歩き方で人生を歩んでいけばいい。
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by francis-sp | 2009-02-01 17:57 | A day in the life


音楽、旅、本、サッカー、日常などをテーマにfrancisが気ままテキトーに語っています。本でも読むような感じで、ゆっくり見てくれたら嬉しいです。


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