Liberdade, São Paulo

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こうしてまた安宿に泊まることになり、静かに夜を迎えている。

サンパウロは大都市だった。サンパウロの東洋人街で宿を探そうとメトロに乗り〈Liberdade=リベルダージ〉という駅で降りて、右往左往しながら日系人が経営している“ペンション・ナミ”という宿に辿り着いた。深夜のバス移動が続いていたため、ベッドにありつくと死んだように眠った。

経営者のナミさんは初老の女性で日系ブラジル人だった。ポルトガル語はペラペラだったが、日本語は忘れてしまったのか流暢ではなかった。この宿を利用しているのはほとんどが“ブラジル人”らしくて、日系ブラジル人も何人か居る。みんな仕事を持ち、このペンションで普通に生活している。日本国籍を持つ者は、同じ部屋のサンパウロで働いている日本人男性と、唯一の旅行者である私だけだった。共通語はポルトガル語であり、ここに2週間定住することでポルトガル語を少し覚えることが出来たし、サンパウロの魅力を知ることが出来た。

〈Liberdade〉という東洋人街は、かつて日本人が多く暮らしていた地域だったらしいが、今は韓国人・中国人も多く暮らしている。〈Liberdade〉を歩くと、東洋人が経営する店や看板が目に着いて、独特の雰囲気を感じる。タイのバンコクやベトナムのサイゴンにあるような中華街に似た雰囲気だ。この宿が一瞬、アジアのどこかの安宿のような気にさせられる。

しかしサンパウロの持つ雰囲気は、それとは明らかに違うものだった。

決定的に違うのは、私と同じ日本人がかつて移民としてサンパウロに住み着き、今は日系ブラジル人として暮らしているということだ。彼らが異国の地で重ねてきた長年の労苦が、彼らが放つアジア人としての匂いが、母国の言葉をいつの間にか忘れてしまった彼らのポルトガル語が、この独特の空気を作っているのかもしれない。

私はニューヨークやサンチャゴ以来の都市に放り込まれた感覚で、言葉もよく分からなくて、この街にはまだ馴染めていない。そんな今の私と同じような気持ちで、当時ブラジルに移住してきた日本人がたくさん居たのかもしれない。

この宿でも“ルイス”や“カルロス”といった名前の日系ブラジル人が生活している。2008年は日系移民100周年にあたるというが、彼らもまた数十年前にブラジルの地に渡って来たのだろう。かつて日本人であったが今は国籍をブラジルに変えて、名前もラテン人のように変えて、言葉はポルトガル語を話している。そんな彼らは日本人ではなく、“ブラジル人”だった。

そもそも“ブラジル人”って何だろうか。

人種は白人、黒人、黄色人に大きく分けられるが、街を歩いている人々やメトロに乗っている人々を眺めてみても正確な分類は出来ない。サンパウロにはイタリアやドイツの移民、中東やイスラエル人も多く暮らしているという。今ではたくさんの人種がMIXされていて厳密に分けるのは無理だし、そうすることに意味が無い。サッカーのブラジル代表がそうだろう。個性的な顔立ちをしたメンバーが揃っている。皆それぞれ違っていて雑多なのだ。私も街を歩けば、おばちゃんに道を尋ねられたり、スーパーに行けば“その棚にある物を取ってちょうだい”と言われることがあった。それは人種とか国籍とか関係なく、たまたま“私”がそこに居合わせたからだ。

彼らをまとめられる唯一の言葉が、“ブラジル”なのだ。

アメリカは人種を分けて考えようとしたり、英語を話すことを当り前として強いているように感じる。しかしブラジルはそうではない。人それぞれの違いを初めから認めていて、人は違っていて当たり前という考え方だ。

貧しい人々も娼婦も乞食も、街を歩けば自然と目にする。昼間は安全だった場所が夜は人っ子一人歩かない危険な場所になる。路上に倒れている人が居ても、人々は驚く様子もなく通り過ぎていく。聞いた話だと、サンパウロでは“50real=25ドル”で人殺しを頼めるとの噂だ。ブラジルでは人の命は安いものだ。〈ファベイロ〉と呼ばれるスラムでは、拳銃のレンタルがあるらしい。子供たちが拳銃を借りて強盗をし終えたら、また返すのだという。サンパウロに滞在中、色んな興味深いエピソードを聞いた。

サンパウロに2週間居て思ったのは、サンパウロは全てを包み隠さず、在りのままをさらけ出し、そして全てを受け入れてくれる街のように思えた。日本人である私には、それはどこか人間らしく本来あるべき姿で、魅力的なことだと思った。この国は日本のように影の部分を隠そうとしたりしない。在りのままをさらけ出している。

日系ブラジル人に“日本とブラジルの違いって何ですか?”と尋ねた。その男性は少し考えてから“ブラジルには夢がある”とニコニコしながら答えてくれた。その答えは明快な答えで、私が期待していた以上の気持ちの良い答えだった。数十年前に日本からブラジルに渡ったかつての移民たちも、きっと苦労を重ねながらも同じようなことを考えたのではないかと、私は今でも思っている。
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by francis-sp | 2009-01-04 00:21 | A day in the life


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